1 地球人と言うもの
イルミダス軍司令部。
室内にはイルミダス軍総司令官のゼーダ、副官のムリグソン、そして復員船の指揮をしていたフィーナがいる。
イルミダス軍への再就職を拒絶するフィーナに、ムリグソンは挑発的に言う。
「私はこの一年間に地球人を観察してきた。そして一つの結論に至った。
地球人は浮気性が多い。しかも道徳心にかけること夥しい。
つまり、愛した女性がいながらも、妹に手をつけ愛人とする」
「違うわ。そのような男性は最初から妹だけを愛しているわ。貴方の言葉は間違っている!」
押されながらも、フィーナはムリグソンに言い返す。
そこにゼーダが口を挟んだ。ゆるりと重々しく。
「戦いに勝つのならば、妹に手を出すような男では駄目だ。近親相姦では我々に勝てない」
何が言いたいのか、誰の事を言っているのか。フィーナは二人の言葉を待つ。
ムリグソンが一枚の写真を突き出す。
その写っている人物に見覚えがある。
「君の交際相手が妹を連れてラブホテルに行っているのだ」
見れば達哉と麻衣だ。
確かに二人は兄妹だが血の繋がりの無い他人であり恋人だ。
そもそも達哉は私の交際相手ではない。残念だけど。
「それは普通の事です」
フィーナは短く言った。
達哉と麻衣の事は応援する。フィーナは二人を異常だと言わなかった。それがごく普通だと。
フィーナが退室すると、ゼーダはカバンから箱を取り出す。
包装紙を破り、中身の箱を取り出す。
「地球を統治するには、その地球人の"普通"を知る必要がある」
"やっぱり妹が好き"と描かれた箱からディスクを取り出すと、パソコンに挿入する。
「妹を愛するのが地球人。ならば我々も郷に入れば某に従え。妹を愛するべきかもしれない」
えっ!?
ムリグソンとラ・ミーメが驚く。
「ムリグソン、貴様は妹が好きか?」
「いえ、閣下のそのパソコンに映っているような娘は………」
「母親の妹ならどうだ? 30は越えているが未婚で18歳の主人公に興味津々」
「………」
ムリグソンの沈黙は肯定とも取れた。ゼーダは「ママというネタも必要だな」と言うとムリグソンの顔に赤みが差した。
ゼーダはラ・ミーメに顔を向ける。
「私は妹でいいです」
ミーメは聞かれる前に答えた。ゼーダが満足そうに頷いた。
ゼーダの発表した内容はイルミダス軍に地球人を大いに驚かせた。
「希望があれば、妹かママを手配する。時間がかかっても必ず用意する。逆も然りだ。必ず受け入れて帝国繁栄に励むように」
希望する成人男性に必ず、妹かママが用意される。問題は女性側が希望しなければならないが、特に地球人については、一人でいるより斡旋されたほうがマシという風潮があり、話は進んだ。
やがて、妹を愛する兄は強き戦士となり、ママに愛された子供は帝国の要となっていった。
このなりふり構わぬ懐柔策に反発した地球人も多くいた。
しかし、彼らの蜂起は強き戦士に阻まれ、帝国の要を崩すには至らない。
そんな時、太陽系連合最後の船。アルカディア号が飛び立つ。
乞食に扮して身を隠していた鹿之介は、完成されたアルカディア号に、過去の会戦で勇戦奮闘したフィーナをキャプテンに抜擢、トカーガの勇士ポリンを連れてイルミダス軍に挑んだ。
各惑星に立ち寄り、反イルミダスの狼煙を上げようとするが協力を取り付けるには至らなかった。
多くの者は、戦うより妹かママが得られる方が良かったのだ。
地球から遠く離れた惑星、ヘビーメルダー。
後に銀河鉄道が開通すると、トレーダー分岐点と呼ばれるようになるが、この頃はまだ田舎にある、大きい鉱山惑星なだけだった。
ここで鹿之介は、イルミダス軍から略奪した物資を販売しながら住民を相手に気勢を上げる。しかし住民は、妹やママを斡旋してくれる方を気にしていた。
そして着いて来たポリンは戦うための同士ではなく、ゼーダが送り込んできた鹿之介の妹役だった事を知る。
失意の鹿之介はフィーナを求めるようになる。フィーナはそれに応えるとやがて懐妊し、ママとなった。
そのうちに住民からこう呼ばれる。
「あのイルミダス製品を売っている人は、妹とママを両方持っているから、本当はイルミダス軍の高級将校に違いない」
「すると、我々に妹かママを用意してくれるのか!?」
「鹿之介さん、ゼーダ閣下に取次ぎをお願いします。自分、コスモ兵法に自信があります」
「あの、自分は57歳になるのですが、ママを頂けるのでしょうか?」
よく晴れたある日のこと。
鹿之介はフィーナの母乳を飲みながら、ポリンの棒アイスを使った訓練の成果を確認していた。
そこへ一通の電報が地球のゼーダから届く。
「イルミダスグンヘヨウコソ」
鹿之介はママと妹を連れ、ついに降伏をした。
その後、余勢をかったゼーダは銀河系の攻略に成功する。
さらに女王ラフレシアの率いるマゾーンが進行してくると、
「女王とはママ。ママとは戦えません」
寝言を言う者が半数に上ったが、
「ママの過ちを正すは息子のみである。すなわち諸君しかいない!」
ゼーダは全軍を鼓舞してこれを破る。
降伏したマゾーンはママと妹を量産出来た為、非常に重宝された。
機械化帝国が版図を広げてくるとこれとも交戦。
「ママから受け継いだ英知を妹へ。そしてその子供へ。その子供が新しきママや妹へ繋がっていく。それこそが永遠の命であり、機械の体はまやかしである!」
ゼーダの強い言葉は機械の体を欲しがる者の目を覚ました。
銀河はイルミダス軍によって平和に統一された。
いいことだらけだった。
伴侶を見つけられないオッサンはわがままを言わなければ、妹という形で若い女性が用意された。
同じようなオバサンは同じようにわがままを言わなければ、ママという形で若い男の所へ行けた。
星野鉄郎はママと何不自由なく暮らせた。
懐妊したポリンはフィーナより胸が大きくなって、より多くの母乳を出せた。
「胸は大きさや母乳の量で決まるものではないわ」
フィーナの言葉を聞いたポリンの胸は優越感で一杯になった。
幸せはそこにあった。ポリンの幸せはそこにあったのだ。
目が覚めた。
時計を見る。
02:14
まだ深夜だ。起床する時間じゃない。
目覚めた妹、ポリンは両手を恐る恐る出し、それはもう、ゆっくりと、おっかなびっくりという様子で自分の胸に触れた。
あった。
良かった…。
布団に横たわり、目つぶり、そばで寝息を立てている二人に合わせるかのように、ポリンも幸せそうに眠っていった。
おしまい。
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